梅雨はまだ明けていません。台風も多く、雨の日が続いています。
それでも、南秋川はこの季節が一番にぎやかです。
鮎とヤマメの釣りが解禁されました。早朝から川岸に立つ太公望たちの姿が散見されるようになり、テラスから眺めていると、清流に糸を垂れる人と、岸の緑と、瀬音とが一枚の絵のようです。雨上がりの川は水かさが増し、流れの勢いが増します。そんな日の珈琲は、どこかいつもより香りが深い気がします。
雨の日は、テラスではなく室内から川を眺めながら珈琲を飲む時間がいい。本を一冊持ち込んで、ページをめくりながらせせらぎに耳を傾ける——梅雨のカフェの、静かな過ごし方です。
今の時期、カフェのほとりの岩場にはイワタバコ(岩煙草)が咲いています。湿った岩の表面にへばりつくように生き、紫の小さな花を垂らすこの植物は、清流沿いの岩場にだけ現れる希少な高山植物です。雨に濡れた葉がつやつやと光り、その存在感は控えめなのに、なぜか目が離せません。

そして、夜。
閉店後、カフェの前を流れる南秋川で、ゲンジボタルが光っています。水がきれいな場所にしか生息できないホタルが、ここ檜原村では今も変わらず毎年この時期に現れます。ゆっくりとした間隔で点滅するゲンジボタルの光は、川面を漂いながら木々の間に消えていく——それはあまりにも静かで、あまりにも美しい光景です。
梅雨の時期ならではのもの——雨に濡れた緑の匂い、増水した川の瀬音、イワタバコの紫、そしてホタルの光。東京都の山奥にこんな場所があります。
東京x山リバーサイドカフェ